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ぼくは断然『サボテン・ブラザース(Three Amigos)』でのこの人が好きですが。

コメディアン、俳優、作家、脚本家、アート蒐集家など、様々な顔を持つスティーヴ・マーティン。近ごろは彼がとてつもなく魅力的なバンジョー・プレイヤーであることも音楽ファンにはおなじみだと思う。巨匠アール・スクラッグスとまで共演しちゃってるほどの腕前。そんな彼がラウンダー・レコードと契約後、3作目となるニュー・アルバムをリリースした。ノージがいち早く入手して聞きまくっているものだから、ぼくもついついハマってしまいました(笑)。

今回は古くからの付き合いになるイーディ・ブリッケルとの共演盤。プロデュースはピーター・アッシャー。ワディ・ワクテル、エスペランサ・スポルディングらも参加。さらに、一見写真に見えるアルバム・ジャケットはCRTノベルティまつりのヒーロー(笑)、マーティン・マルが描いた絵画。裏返すとこれを実写でスティーヴとイーディが演じてます。やー、素晴らしい。21世紀の“スティーヴ&イーディ”はフォーク/ブルーグラスの世界から現れましたよ。

のっけの「ホエン・ユー・ゲット・トゥ・アッシュヴィル」って曲から、いきなりやられた。スティーヴ・マーティンの味わい深いバンジョーに導かれて、イーディ・ブリッケルが“アッシュヴィルに着いたらEメールしてね。どうしてる? 仕事は見つかった? 恋人は?”みたいな歌詞を、なんとも魅力的なハスキー・ヴォイスで淡々と綴っていくのだけど。

どこかに出て行く者もいれば、どこにも行かず同じ場所に佇み続ける者もいる。このアルバム自体、どこか別の場所へ出て行くことなく、あえて自分が暮らし続ける場所にとどまりながら編み上げられた1枚だと思う。だからといって保守的だとか、そういう単純な話しではなく。そこには深い喪失感もあるけれど、強い意志もあって。ひとつところに腰を据える者にしか描けない鋭い視点ってやつもあるのだってことをこのアルバムは静かに、しかし確かな手応えとともに教えてくれる。まさに室内楽とも言うべきアコースティックな弦楽器群のアンサンブルも最高。優しくふくよかに空間を包み込む。

列車から赤ちゃんを入れたスーツケースを投げ捨てる…という、おそろしく衝撃的な内容の「サラ・ジェーン・アンド・ザ・アイアン・マウンテン・ベイビー」って曲とか、いわば伝統的なアパラチアン・マーダー・バラッドのようでもあり、かといって最終的に誰も死なくて、妙に温かい仕上がりだったりして。一筋縄にはいきません。不思議な吸引力に満ちた世界がアルバム全体を貫いている。全曲、スティーヴ&イーディの書き下ろしです。

いや、まあ、とにかくまじにいいアルバムだ、と。そういうこと。デイヴィッド・レターマンの番組に出てライヴを披露したときの映像がここにあります。ぜひチェックを。