これまでに何度もあちこちで書いてきたことだけれど。時代が1980年代に入って。音楽界にどんどんデジタルの波が押し寄せてきたころ。テクノだデジタル・ポップだニュー・ウェイヴだ何だと、そうした音楽ばかりがシーンを席巻し始めて。お古い世代の音楽ファンであるぼくは正直、面白くなかった。もう昔ながらのアナログなロックなんかなくなってしまうんじゃないかとさえ、まじ悲観したものだ。

そんなある日、たまたま出くわした1本のビデオ・クリップがぼくの憂鬱な気分を救ってくれた。84年のこと。今は亡きスティーヴィー・レイ・ヴォーンの「テキサス・ハリケーン(Couldn’t Stand The Weather)」のクリップだった。タイトル通り、雨と風とスモークを正面から受けながら、時代遅れの長髪をなびかせて凶暴なブルース・ギターを弾きまくるレイ・ヴォーン。いるんだなぁ、こんなやつが…と。むちゃくちゃうれしくなった。

デイヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」に参加したギタリストってことで、そのちょっと前から名前は聞いていた覚えもあるのだけれど。あまりちゃんと彼の音楽に接してこなかった自分を責めました。身内筋のファビュラス・サンダーバーズはそのころすでにお気に入りのバンドだったのに。まあ、25年くらい前の話だ。まだまだ情報収集能力が甘かったってことっすね。

でも、そのぶん、「テキサス・ハリケーン」のクリップでのうれしいショックはでかかった。やっぱ生の魅力。生の快感。これに尽きるってこと。最先端テクノロジーを駆使したデジタル文化が音楽シーンを牛耳りだしていたあの時代に、そんな風潮と逆行するような肉っぽく、ルーツ・ミュージック寄りの快感をこんなに生々しく届けてくれる頼もしい男がまだいたのか、と。ぼくの胸は大いに高鳴った。雨にも負けず、風にも負けず、デジタルにも負けず…って感じ。慌ててこの曲を収録したレイ・ヴォーンのセカンド・アルバムを買って、ひとつさかのぼってデビュー盤も買って。けっして派手な仕上がりではないけれど、ロックンロールやブルースが本来持っている人間臭さをたっぷりと放つその仕上がりにノックアウト。やられました。

というわけで、そんなぼくの救い主的アルバムのエクスパンデッド・エディションの登場です。99年にレイ・ヴォーンの肉声によるインタビュー音源とか、アウトテイク4曲とかをボーナス収録したデジタル・リマスター盤が出て。その後、日本では紙ジャケ発売もされたけれど。今回は2枚組仕様。ディスク1はオリジナル・アルバム収録の8曲に加え、99年盤に入っていたアウトテイク4曲、あの悲劇のヘリコプター事故のあと91年に兄弟のジミー・ヴォーンが膨大な未発表音源/アウトテイクの中から選曲した裏名演集『スカイ・イズ・クライング』に収められていた同時期のパフォーマンス4曲、未発表別テイク3曲を詰め込んで。さらにディスク2に、84年8月のモントリオールでの未発表ライヴ13曲をまるごと収録…という太っ腹仕様だ。あっついです!

しかし、アマゾンで買って驚いたんだけど。2枚組とはいえ輸入盤だと今や1枚ものとたいして値段が変わらないんだね。日本のレコード会社も大変だろうなぁ。