ベンチャーズを“歌のない歌謡曲”バンドだと思っているような不届き者が多いようだけれど、それは間違い。彼らの本質はロックンロール・バンドであって…とか。そんな原稿をこれまでずいぶんいろいろなところで書いてきたっけ。

まあ、いまだ日本におけるベンチャーズの一般的イメージってのはあまり変わってないみたいで。もう、その誤解を解くためにがんばるのも疲れちゃった感もあり(笑)。実際に彼らが歌のない歌謡曲バンド的な側面を持っているのも事実だし…。ただ、それだけじゃない、本質はむしろ別のところにあるってことを、もっと多くの人に知ってもらいたいなぁと、いまだに願ってはいるのだけれど。

特に彼らが60年代半ばにクリエイトしていたシンプルかつスピーディなロックンロール・グルーヴ。これは最高だから。この時期のベンチャーズは、充実した演奏、アレンジ、音圧、ドライブ感など、あらゆる面で圧倒的。ノーキー、ドン、ボブ、メルという鉄壁のラインアップを核に、生ギターをはじめとするオーバーダブを多用したり、ビリー・ストレンジ、ジェームス・バートンなど外部の凄腕ギタリストとタッグを組んだり、レオン・ラッセルやハル・ブレイン、アール・パーマー、レッド・ローズ、スティーヴ・ダグラスなど名うてのセッション・ミュージシャンを適材適所に起用したりしながら、ベンチャーズは通常のコンボ・バンド編成では表現しきれない音世界を構築してみせた。本国アメリカでも、イギリスでも、本当に多くの後続ミュージシャンに計り知れない影響を与えている。ジミー・ペイジ、リック・デリンジャー、ジム・メッシーナ、ジェフ・ベック、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ジェフ・バクスターなど、ベンチャーズに衝撃を受けてロック・ギターの奥深い道へと分け入っていった者はそれこそ無数だ。ぼくは内外のロック歴史本みたいなやつを買うとき、その本がベンチャーズをちゃんと取り上げているかどうか、きっちり評価しているかどうかを基準にして選ぶことにしているくらい。

もちろん、日本でも彼らに触発されたギタリストは数え切れないくらいいるわけですが。今回ピックアップしたCharもそんなひとり。Charはこのところ“TRADROCK”なるシリーズで、自らのルーツである様々なギタリスト/ミュージシャンの音楽に改めて正対してみせていて。これまでエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ビートルズ…と興味深いカヴァー・アルバムをリリースし続けているのだけれど。その流れで、あっぱれ、ベンチャーズのカヴァー盤も登場しました。ぼくも選曲で協力させてもらっていて。だからというわけではないけれど。こりゃ、ごきげんな仕上がりです。

選曲その他はこちらのホームページで確認してほしいのだけれど。基本、ベンチャーズのオリジナル・ヴァージョンに忠実でいながら、随所にCharならではのウルテクがうなっていて。ギターを弾く人だったら、げっ、これはありえない音域じゃないの? このフレージングどうなってるの?的な驚きも満載。もちろん、それだけじゃなくCharのギターによる“歌心”みたいなものも炸裂していて。ギターを弾かない人でも泣けるはず。

ぼくも聞かされていなかったサプライズ選曲としては、ジミ・ヘンドリックスの名曲をベンチャーズ・アレンジで蘇らせた「エンジェル」! これがお見事。ベンチャーズには絶対にできないベンチャーズ・サウンドって感じで。素晴らしい。ロックンロール・バンドとしてのベンチャーズの斬新な冒険心と豊かな歌心を身体で知り抜いているCharならではの1枚。他の“TRADROCK”シリーズ同様、CD+DVD。ウルテクを映像でも確認できます。